近付くなって言ったよな?

13/26
前へ
/698ページ
次へ
「貴方から川越(かわごえ)先生のにおいが、してる……」  温和(はるまさ)の目をじっと見つめて言う。  怖いけど、逸らしたり、しない。 「温和(はるまさ)、川越先生を抱きしめたり……した……?」  恐る恐る……でもはっきりと疑念を問いかけたら、温和(はるまさ)が一瞬きょとんとしてから、次いで怒ったように眉根を寄せて「あの女」って腹立たしげにつぶやいた。 「……すまん、音芽(おとめ)。――俺の、……ミスだ」  言って、温和(はるまさ)が私をじっと見つめてから「今度からこんな事ないように気をつける」って言った。  はっきりとそうだと言葉にはしなかったけれど、それは彼女を抱きしめていないという意思表示にも取れなくて、しかも今後もそう言うことがあるかもしれないと示唆(しさ)する発言とも取れて。  不安になった私は 「……イヤ!」  気が付いたら、自分でもびっくりするぐらいハッキリと温和(はるまさ)にそう訴えていた。 「どんな理由があっても……そういうのは、嫌っ! 温和(はるまさ)、お願いだから……私以外の女性(ひと)を……抱きしめたり……しないで!?」  私、大抵のことは我慢できる。  温和(はるまさ)に強く言われたら逆らえない。そう言うところがあるの、自覚してる。  でも、そんな私にだって、許せないことがあるんだって分かって……欲しい。  何でも容認できるわけじゃ、ないんだよ?  言って、温和(はるまさ)をじっと見つめたら、彼がハッとしたように瞳を見開いて。 「温和(はるまさ)……お願い」  もう一度そう言ったら、涙がポロリとこぼれ落ちた。
/698ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3103人が本棚に入れています
本棚に追加