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「音芽、無理して思い出さなくていい」
温和がすぐさま私の手をギュッと握ってくれて、私を暗い闇の底みたいな頭痛の沼からそっと引き上げてくれる。
いつもなら抱きしめてくれるところをそうしてくれないのは、自分に川越先生の移り香が残っていると自覚しているからかな。
今、あの香りで抱きしめられたら、余計に苦しくなるって何となく確信して……温和の気遣いが嬉しくて、同時に切なかった。
温和の大きな手にギュッとしがみつくようにすがり付きながら、この霞がかかったみたいに頭痛の底でロックがかかっている記憶を取り戻せたら、温和を苦しめなくて済むのかな、とぼんやり思う。
温和が守ろうとしているのはきっと……私の記憶の鍵、なんだよ、ね?
これを表に出さないために、温和、色々と奮闘してくれてるんじゃ……ない?
ズキズキと痛む頭で、ぼんやりとそう思って――。
温和がそうまでして封じ込めようとしてくれている私の思い出せない何かは……私にとってどんな記憶なんだろう、って思った。
それを思い出したなら……温和を川越先生に向かわせなくて、済む?
そう思ったら、怖いけど向き合わないといけない、って強く思ったの。
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