記憶の扉

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 でも、私の恋愛対象はハル(にい)ただ一人で……それ以外の人なんてあり得なくて。  それは男性だからとか女性だからとかそういうのも超越している思いで……。とにかくハル(にい)か、ハル(にい)じゃないか、だったから。  だから私、喜多里(きたさと)先輩の気持ちに気付かない振りをしようと必死で。 「私、音芽(おとめ)ちゃんが好きよ」  言葉にしてはっきり告げられても、意味が頭の中に入ってこなかったのはそのせいかな。  言葉と一緒にギュッと私を抱きしめる喜多里先輩の腕の力が強められる。  私はそれを分かっていながら、振りほどくことすら出来ずにじっと彼女の腕の中に収まりっぱなしで。 *** 「貴女、いつも奏芽(お兄さん)霧島(きりしま)くんに気に掛けられているでしょう?」  切なげに吐息混じりで言われても、ぴんと来なかった。  カナ(にい)にはしょっちゅう苛められている覚えしかないし、ハル(にい)のことは大好きだけど、もう何年もずっと近付き難い。  カナ(にい)はともかく、ハル(にい)のことを気に掛けているのはむしろ私のほうなわけで。 「そんな……こと、ないと思い、ます」  耳元でささやかれる声と、むせ返るような甘い香り。  そのふたつにクラクラと目眩がしてくるようで、でもしっかりしないと、とも思って。 「あんなに気に掛けているのに通じてないなんて……片思いってどんな形にせよつらいものね」  クスッと笑われて、私は自分のことを言われているのかと思ったのだけれど、喜多里先輩は兄たちのことを言っているみたいで。 「奏芽(かなめ)も霧島くんもいつも貴女のことばかり見てるわよ。私が誰を気にしているんだろう?って気になってしまう程度には」  言われて頭をそっと撫でられた。
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