記憶の扉

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*** 「音芽(おとめ)! 音芽っ!」  悲痛な声で何度も何度も名前を呼ばれて、薄っすらと目を開けた私の視界に真っ先に飛び込んできたのは、泣きながら私を覗きこむ佳乃花(かのか)のグショグショの顔だった。  佳乃花(かのか)が委員会を終えて教室に戻ってみたら、私が自席のすぐそばで壁に寄りかかって座ってるみたいに気を失っていて、どんなに呼びかけても反応がなかったからすごく慌てたんだって、話してくれた。  佳乃花(かのか)が駆けつけたとき、教室には私しかいなくて、私がどのぐらいの間そんな状態で放置されていたのか分からなかった佳乃花(かのか)は、パニックになってしまったらしい。  どこか身体を悪くして気を失っていたんだとしたら、発見が遅れれば遅れるほど命に関わる。  そう思って不安に耐え切れなくなった佳乃花(かのか)が部活中の一路(いちろ)に助けを求めて、その絡みでカナ(にい)やハル(にい)まで駆けつけてくれたみたい。 「音芽っ、大丈夫なの!? どこも痛かったりしんどかったりしない!?」  佳乃花(かのか)に真正面から見据えられて、目は覚めたものの親友の問いかけに何があったのかを思い出そうとしたら、物凄い頭痛に襲われて私は身体を丸めるようにしてうずくまった。 「頭、痛い……」  こめかみを押さえながら涙目で訴えたら、佳乃花(かのか)が「すぐ病院行こう!」って慌てて。  一路がそんな佳乃花(かのか)を「まずは先生呼んできてからだろ」と懸命になだめる。
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