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「手、俺の上にそのまま……」
その方が俺も気持ちいいからって温和が言って。
私は彼の、一見薄く見えるけれど筋肉質で張りのある胸板に両手を載せてしまっていることに今更のように気が付いてにわかに恥ずかしくなる。
右手の下で温和の心臓が規則正しく鼓動を刻んでいるのが伝わって来る。
私の心臓はドキドキとうるさいぐらいに駆け足で血液を送り出しているけれど、温和の心臓はどうなんだろう?
ふとそう思って、手をそっと動かしたら、温和が小さく「んっ」と息を詰めたのが分かった。
私、今……。
多分温和の胸の突起に触れてしまったんだ、って気付いてから、温和もそこをさわられると気持ちいいんだって知ることが出来てちょっぴり嬉しくなる。
「音芽、俺の指示、忘れてないか?」
思わず腰を浮かせたまま温和の反応にばかり集中してしまっていた私は、彼から不機嫌そうな声音でそう呼びかけられてビクッとする。
そういえば……。
私はこのまま自ら腰を沈めて、温和を受け入れるように言われていたんだ。
「あ、あのね……でも……」
私にそれをしろって言うのはやっぱりハードルが高いよ? 温和。
そう続けようとしたら、
「ずっとお預け食らってる俺も、結構しんどいんだけど?」
先んじて拗ねたような口調で温和にそう言われてしまっては、さすがに言葉を続けられなくなる。
「な、俺のこと、助けて……くれるだろ?」
本当はさっきしたみたいに私の腰骨を掴んでグッと引き寄せたらいいだけなのに、温和はそんな方法なんて知らぬげに私を見つめてくるの。
私が自分の意思で動くのを待ってる温和、すごくすごく意地悪だと思う。
でも……そういうところも含めて私は彼のことが大好きで、こんな風に温和に困らされることも嫌いじゃない。
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