3093人が本棚に入れています
本棚に追加
/698ページ
その頃には、大好きな人からのキスを素直に喜べないことが、もうただただ悲しくて……情けなくて……。
足が痛くなかったら、走ってこの場を立ち去りたいくらいなのに、怪我のせいばかりじゃない気怠さで、足が鉛のように重かった……。
それでも自分を鼓舞して一生懸命歩く私を、温和が手を引っ張って止める。
「待てよ、音芽っ」
「離、して……！」
掴まれた手首が痛い。
「泣いてるの知ってて、そのまま帰せねぇだろ」
何なのよ。
酷いことをして泣かせたのは温和じゃない。
なのに何で帰せないとか、言うの？
意味、分かんない……。
「温和のそばにいるの……、しんどいの。……分かん、ない？」
ここまで言えば離してくれるでしょ？
そもそも温和は私がそばにいるの、嫌がってたんだもん。
願ったり叶ったりじゃない。
「……だから、離して」
涙で潤んだ瞳で温和を見つめて懇願する。
なのに、温和は全然手を緩めてくれなくて。
それどころか
「分からねぇよ」
とか……馬鹿なの？
私は足の痛みも忘れて、温和から手を引き剥がそうともがいた。
「温和っ、お願いだからっ……、これ以上、私を惨めな気持ちにさせないでっ！」
最初のコメントを投稿しよう！