とんとん拍子というのでしょうか

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音芽(おとめ)、お前、今の……もう1回!」  ギュッと手を握られて顔を覗き込まれて、私は「何が、何が!?」と思ってしまう。 「奏芽(かなめ)、こいつはもう俺んだ。気安く触るな」  温和(はるまさ)がカナ(にい)の手から私の手を引き抜いてから、耳元に唇を寄せる。 「奏芽のやつ、お前にお兄ちゃんって呼ばれたのが嬉しかったんじゃね?」  って。 「……え?」  キョトンとしてつぶやいたら、 「奏芽、昔っからよく、お前の兄貴は自分だけのはずなのに音芽が俺と区別して“カナ(にい)”としか呼んでくれねぇ、ってぼやいてたんだよ。――知らなかっただろ」  ってニヤリとされた。 「要らんことはよく言うくせにそういうのは言わねーんだよ、は」  言って、クスクス笑う。 「ハル、お前……余計なこと言い過ぎ」  カナ(にい)温和(はるまさ)の鼻をムギュッとつまんで、私から視線をそらす。 「ね、いま温和(はるまさ)が言ったこと、本当……なの?」  恐る恐る聞いたら、「音芽(おとめ)、ハルのことはもう“ハル(にい)”って呼ばねーんだろ?」ってどこか決まり悪そうに私を睨んできて。 「うん……」  その声にうなずいたら、「だったら俺のことも普通に“お兄ちゃん”でよくないか?って思っただけのことだ。深い意味はねぇよ」ってそっぽを向くの。  カナ(にい)、それ、すごく気にしてたのね!?  気づかなくてごめんなさい、って思ったけれど……長い間「カナ(にい)」って呼んできた癖は一朝一夕では抜けそうにない。  カナ(にい)、ごめんね?  でも、これからはなるべく「お兄ちゃん」って呼ぶように努力するから。だから許して?
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