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「鳥飼先生ちょっと……」
私、気付かず眉間にシワを寄せてしまっていたらしい。
その様子に気付いた温和が、廊下の方に付いてくるように目配せしてきて。
私はそろそろと席を立って彼の後ろに付き従った。
廊下に出て少し歩いて、周りから死角になった職員用下駄箱のところまで来ると、
「音芽――」
プライベートの時のように下の名で呼びかけられて、頭にポン……と軽く手を載せられた。
「最後に会った日、鶴見に酷いことをされたのはお前の方なんだからな?」
そこで一旦言葉を止めて、
「――それを見失うな」
声を低めてそう言ってから、柔らかい声音で続けてくれる。
「だからな、音芽。今までお前が見舞いに行かなかったのだって、仕方のないことだとあっちだって心得ているはずだ。――音芽が気に病むことなんてひとつもないんだ。分かったな?」
言って、頭を優しく撫でてくれた。
「温和……」
温和は私の考えていることなんて、全部お見通しなんだ。
そう思ったら、目尻にじんわり涙が滲んだ。
「泣くな」
ギュッと彼の胸に顔を押し当てるように片腕で抱きしめられて、私は「メイク崩れちゃうよ」って小さく抗議した。
温和、有難う。大好き。
そう、思いながら。
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