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温和に鶴見先生のお見舞いを打診された私は、温和と下駄箱で別れてすぐ、保健室に行ってみた。
「今、大丈夫?」
開け放たれたままのドアを控えめにノックして、代わりのように扉前に引かれた薄桃色のカーテンを少し開けて声をかけたら、パソコンから顔を上げた逢地先生が「もちろん」と返してくれる。
前にも一度座ったことのある保健室内のテーブル前に向かい合わせに座って、鶴見先生の事をそれとなく話題に上げたら、なっちゃんは今日も彼のお見舞いに行くつもりだと教えてくれて。
「私も後で霧島先生と一緒に伺おうかと思ってて……」
そう告げたら、
「は・る・ま・さ、でしょ?」
と小声でたしなめられてしまった。
「せっかく職場公認になったんですもの。放課後ぐらいは、ね?」
ニコッと笑ってそう言うなっちゃんに、私は照れつつも弱ってしまう。
私、そんなに器用なほうではないから、職場ではなるべく「霧島先生」を通していないと、ついうっかり子供たちの前でも「温和」って呼んでしまいそうなの。
なっちゃんに戸惑いながらそう言ったら、「あら、でも入籍したらオトちゃんも"霧島先生”になっちゃうんじゃなくって?」と微笑まれた。
ああ、そう。
その問題がね、ありました。
校長先生や教頭先生との事前の話し合いでは、「入籍後はおふたりとも霧島先生で宜しいんじゃないですか?」と、いとも簡単に言われてしまって。
入籍したのに旧姓のままというのは保護者からも変に勘ぐられるかもしれませんし、入籍を隠すのも逆におかしな話になりますでしょう?というのがその理由。
温和がお二人の提案に満足そうにうなずいたもんだから、そこについてはそれで決定と言うことになってしまった。
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