3103人が本棚に入れています
本棚に追加
***
温和とふたりで鶴見先生の入院なさった病室――4人部屋の窓際――のカーテンをそっと開けて中を覗いたら、彼が一瞬怯えたみたいに瞳を見開いてから、すぐにまるで動揺を悟られまいとするように呼吸を整えたのが分かった。
4人部屋だけど、満室にはなっていなくて、今はどうやら鶴見先生と、対角線上にもう1人いらっしゃるだけみたいで。
「撫子、悪いんだけど下のカフェでみんなの飲み物を買ってきてもらえる?」
そうして、まるで何も知らないなっちゃんを遠ざけるように、5フロア下にある、1階のカフェへのお使いを頼んでお金を手渡した。
「皆さん、アイスコーヒーで構いませんか?」
鶴見先生に問いかけられて、私も温和も無言でうなずく。
本当なら「気を遣わないでください」と言うところなんだろうけれど、今回に限っては、きっとなっちゃんをこの場から遠ざけるのが目的なんだと思ったら、あえて断るのも野暮な気がして。
「撫子。アイスコーヒーを4つ、お願いできるかな?」
きっとひとり、まるで追い払われるみたいに買い物を頼まれたなっちゃんも、何となく察したんだと思う。
ニコッと微笑んで小さくうなずくと、「じゃあ行ってきますね。皆さん、ごゆっくり」と、特に全員の好みを再確認などすることもなく病室を後になさった。
なっちゃんの足音が病室前から遠ざかっていくのを、残った3人で、固唾を飲んで見守る。
そうして、きっかり10秒ほど数えた辺りで、鶴見先生が口を開いた。
最初のコメントを投稿しよう!