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「――鳥飼先生、あの日は本当に申し訳ありませんでした!」
手足を固定したギブスが痛々しく見えて……。
そんな姿で私にガバリと頭を下げる鶴見先生に、逆に申し訳ないような気持ちがわいて、思わず一歩前に踏み出そうとしたら、温和に腕を掴まれて引き止められた。
「逢地先生からお聞き及びかもしれませんが。俺たち、婚約したんで、もう2度とこいつに近寄らないでください。――それが守れるなら、あの日のことは口外しません」
水に流す、とは言わず、口外しないと告げたところに、温和の静かな怒りを感じた。
裏を返せば、何かするようならあの時のことを告発します、と言っているのも同じかな、と。
その上で、温和はわざと鶴見先生に見せ付けるように私の左手薬指のクローバーリングに口付けを落とすと、鶴見先生を睨みつけた。
「きっ、霧島……先生っ」
思わず職場モードで抗議したら、「温和だ、音芽」と即座に訂正されてしまう。
プライベートでそういう他人行儀なのは好まない、といつになくハッキリと言い切る温和に、私は戸惑ってしまう。
「あのっ、でも……つ、鶴見先生がっ」
言おうとしたら「僕のことはお気になさらず。おふたりがそう呼び合っておられるのは存じてますから」と、逆に気を遣われてしまった。
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