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「鶴見先生、逢地先生が戻られるまでにそんなに猶予があるとは思えませんし、もう少し分かりやすく話してもらえますか?」
まるで私の気持ちを代弁してくれたみたいな温和のセリフに、私はつくづく彼と一緒にいられてよかったって思ったの。
私はこう言う時、気持ちを的確な言葉にするのが下手で。
なんて言うか、感情が勝ちすぎて思うようにセリフがつむげないの。
「分かりました。では単刀直入に話します。僕は――幼い頃、母親から放置されて育ちました。いわゆるネグレクトというやつです。母は母なりに父と死別した直後から、女手ひとつで子供を育てないといけなくなって一杯一杯になって壊れてしまっただけの可哀想な人だったのかもしれません。でも、僕にはそう言うのは分からなかったから……ただただ父がいた頃のように愛されたくてたまらなかった」
言って、「重い話ですみません」と付け加えて、「いくら遠方に住んでいるからって……おかしいでしょう? こんなに長いこと1人息子が入院しているのに、親が1度も顔を出さないのは」と自嘲気味におっしゃった。
さっきの「――おかしいと……思いませんか?」はそこに繋がる言葉だったみたいで。
「だから……僕はどうやって人を愛したらいいのかとか……実はイマイチよく分からないんです。同じように、相手からの好意も、それが恋愛的なモノなのか、友情的なモノなのか、はたまたその他のものなのか……相手が歳の近い異性であればあるほど見分けがつかなくなります」
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