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そこで一旦言葉を止めると、私と温和を交互に見比べて、
「ちょうどあの頃、母から相手にされなかった僕に、唯一愛情を注いでくれた祖母が倒れてしまって……。自分ではそんなつもりはなかったんですが、もしかしたら……僕は平常心を失っていたのかもしれません」
そう言って遠い目をなさった。
お父様方の祖父母、お母様方のお爺さまは鶴見先生が生まれる前にはすでに鬼籍の人だったそうで、母方の祖母が彼にとって唯一のお婆さまだったらしい。
倒れたお婆さまをお見舞いに行ったら、
「大我には色々辛い思いをさせてしまったから……ちゃんと人を愛せる子に育ってくれたかどうか、お婆ちゃん、心配でたまらないのよ」
と言われてしまったらしい。
25歳まで、恋人のひとりも出来たことがなかったのを指してと思われる言葉に、「何をバカなことを」と返しながら、心の内を見透かされたみたいでドキッとしたのだと、鶴見先生が視線を落とした。
「鳥飼先生はいつも明るくて、無邪気で屈託がなくて。きっと愛情をたっぷり注がれて育ってらしたんだろうなって……、そんな風に思ったら……うらやましくて、ねたましくて。オマケに家族だけじゃなくて幼なじみの霧島先生にまでとても気にかけられているのが分かって。何て不公平なんだって思いました」
ドキッとした。
不公平――。
確かに私は両親からも――意地悪だったけれど――多分カナ兄からも……凄く可愛がられて育ったと思う。
温和からも……そう。
お母さんからの愛情でさえも受けられないという状態が、私には想像がつかないくらい、遠い遠いところの話で。
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