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「音芽はご覧の通り無茶苦茶可愛いんでね。アンタがこいつに愛されたいと思った、っていうのは百歩譲って仕方ないと思います。――けど」
そこで私をギュッと抱きしめると「どんなにもっともらしい御託を並べようと、こいつを傷付けようとしたっていうのは聞き捨てならねぇし、例え音芽が情にほだされて許したとしても、俺は絶対にアンタがしたこと、許す気ねぇから」
温和が私を抱きしめる腕に力がこもる。
「こいつを人間不信にしてやりたかった? ――ふざけんなっ!」
温和が吐き捨てるようにそう言って、鶴見先生を牽制する。
怒りのためか、いつも冷静な温和の言葉遣いがかなり荒くなっているのを感じて、私は振り仰ぐように温和の顔を見上げた。
そうして、彼の凛とした険しい表情に、苦しいぐらいに胸がギュッと締め付けられたの。
温和が私のことをすごくすごく大切に思ってくれているのが分かって……、思わず感情がコントロール出来なくなる程に――。
グッと下唇を噛みしめたら、まるで感情の不具合を調整するみたいに視界が水の底に霞んだ。
***
「霧島先生のお怒りはごもっともです」
温和の辛辣な物言いに、でも鶴見先生は少しも怯まなくて。
むしろ、いっそ穏やかにすら思える声音でアッサリと温和の怒りを受け入れた。
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