それだけは代わってやれねぇから

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音芽(おとめ)、そろそろか?」  そんな……改めて「いいか?」なんて聞かれたら、恥ずかしくて言葉に詰まってしまうっ。 ***  結婚して数週間。  温和(はるまさ)は籍も入れたと言うのに、決して避妊を怠らなくて。  私は……入籍したらすぐにでも……その……なしでじかに温和(はるまさ)と触れ合えると思っていたから、それが凄く違和感で。  思い切って「しないの?」って聞いたのが、ハネムーンの初日の夜。  温和(はるまさ)が、そんな私に「自粛してんのに(あお)るな、バカ」と口付けをくれてから続けたの。 「俺、音芽(おとめ)が担任を受け持っている間は避妊するつもりだから」  って。  私、温和(はるまさ)の言わんとすること、大体理解出来たけれど……でもやっぱり結婚したからには少しでも早く大好きな温和(かれ)との赤ちゃんが欲しい、とも思ってしまったわけで。  温和(はるまさ)にそう訴えたら、「バカ音芽(おとめ)」って、久々に照れたような怒ったような顔で言われてしまった。  次いで、「妊娠と出産だけは俺、代わってやれねぇから」って申し訳なさそうに続けられて、「子供は……やっぱお前が担任を外してもらってからだ」って真剣な目で見つめられた。  その言葉に、私、思わず言葉に詰まったの。  赤ちゃんは欲しいけれど、担任を外れるのは悲しいなって思ってしまったから。  私ね、実を言うと「先生」というお仕事、めちゃめちゃなりたくてなったか?って聞かれたら違うの。  私が先生になった動機は、“温和(はるまさ)のそばにずっといたかった”から。  温和(はるまさ)が違う職についていたら、きっと私も今、先生はしていないと断言できる。  でも――。
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