Epilogue

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 温和(はるまさ)が恐る恐る手を伸ばして触れたのは、すっごくすっごく小さな手。  その指先には、一丁前にちゃんと小さな爪が生えていて。  その手指と爪の形が、温和(はるまさ)のものに似ているって気づいた途端、胸の奥が堪らなくキュンとうずいた。  この子は……まぎれもなく私と温和(はるまさ)の……赤ちゃんだ。  2787gで生まれてきた我が子は、誰がなんて言ったってやっぱり可愛くて。  キュッと閉じられたままの腫れぼったいまぶたも、薄く開いている愛らしい唇も、まだ生まれたばかりだからか赤黒く見える気がする頬も、生えているのかどうか、じっと目を凝らさないと分からないような薄い眉も。  何もかもが愛しくてたまらない。 「温和(はるまさ)……。私たち、パパとママに……なれ、た?」  気怠い身体。  その中でも特に痛む下腹部。  それらは全て、私がこの子を命がけでこの世に送り出した、証。 「当たり前だろ。こんな可愛い子、俺とお前以外の誰から生まれてくるってんだよ」  言いながら、温和(はるまさ)がねぎらうように私を撫で続けてくれる。 「温和(はるまさ)、私をママにしてくれて……ありがとう」  涙目で言ったら「バーカ。それ、俺のセリフだろーが」って。 「でも温和(はるまさ)は……ママにはなれないよ?」  分かっていてそう言ったら、「無駄口叩ける程度には元気そうで安心した」ってキスをされた。 ***  私たちの赤ちゃんは天使みたいに愛らしい女の子で。  1月24日に生まれて、今日で生後5日目。  初産婦の私は6日間の入院で、明日退院することになっている。  出生届は生後14日以内に提出しないといけない。  まだ猶予(ゆうよ)はあるけれど、お世話の時に名前を呼びかけられないのは結構しんどいなって思うの。  早く名前、つけてあげなきゃ。 ***  生まれる前から何度か名付けの候補を話し合ってきた私たちだけど、どうしてもこれと言うのが浮かばなくて、決めあぐねていて。 「赤ん坊の顔見て決めないか?」  結局温和(はるまさ)のその提案に、私もうなずいたの。
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