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「なぁ音芽。俺さ、ライオンの気持ち、分かる気がする……」
結婚して同棲生活を始めて間もなくのこと。
先日職場に、妊活云々の話をして以来、温和はやけにご機嫌で。
リビングのソファで2人並んでテレビを観ていたら、彼が不意に私の頬へ口付けを落としてからそうつぶやいた。
「……ライオン?」
テレビにはサバンナで狩りをするライオンの姿が映し出されていて……。
ああ、これを観ていて何かを思い出したのね、と思った。
「知ってるか、音芽。ライオンってさ……獲物を殺す時『食べたい殺す!』って気持ちじゃなくて『可愛い! 可愛い!』って思ってるうちにうっかり殺しちゃう感じなんだってさ」
そう言うと、温和が私をソファに押し倒して馬乗りになってきた。
「ひゃっ! ――はる、まさ……っ?」
突然の豹変と同時に、私の首筋に噛み付くみたいなキスを降らせてくる温和に、そんな見えるところに酷くしたらアザになっちゃうっ、とかソワソワしてしまう。
つけるなら見えないところにして欲しい。
一生懸命身体の位置をズラして逃げようとする私を、温和が両腕でグッと押さえつけてくるの。
「ね? も、悪ふざけはっ……ゃ、――んっ」
やめて?って言おうとした唇は、首筋から顔を上げた温和からの強引なキスで塞がれてしまった。
「あー、本当可愛すぎてムカつく。俺がお前のこと無茶苦茶にしたくて堪んねぇ気落ちを抑えんのにどんだけ苦労してるか、お前分かってる?」
情欲に潤んだ瞳で見下ろされて、私はゾクッとしてしまう。
「――温和になら……私、食べ尽くされても構わない、よ?」
恐る恐るそう言ったら、「バカ音芽。その言葉、後悔するなよ?」とか……。
余裕のない温和、カッコよすぎでしょ?
大好きな温和にギュッと苦しくなるぐらい抱きしめられて、私は本当にこのまま永遠に自分の時が止まってもいい、って思ってしまったの。
「温和、大好き……」
その声が意味なんてもたない嬌声に変わるまで、それほど時間がかからないこと――、私、経験から知ってるよ?
ね、温和。貴方がライオンの気持ちがわかると言うのなら、私はシマウマの気持ちが分かるかもしれないな?
食べられる私も、貴方に命を絶たれる瞬間はきっと恍惚としていると思うの。
そう言ったら、貴方はどんな顔をするんだろう?
END(2020/08/28)
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