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「気付いてくれるといいね」
女の子の扱いに慣れたお兄ちゃんなら――例えそれが小さな女の子相手であったとしても――絶対に気付いてくれると分かっている。それなのに何となく言葉を濁したのは、親として娘の恋心を素直に応援できないもどかしさから。
「ママ、これ、和音のお小遣いで買っても、いい?」
鏡の前。私が子供の頃から結婚してすぐの頃までずっとしていたみたいなボブをした和音が、自分の髪にヘアピンを当てて、納得したみたいに小さくうなずいた。そうして、気に入ったらしいそれを買ってもいいか?と聞いてきたのへ、私は小さくうなずく。
ちょうどその時、少し離れたところに佇んでいた温和が近づいて来て――。
私に何かを言ってきたの。
でも、雑踏と和音の応対で、気がそぞろだった私には、温和の言葉がよく聞き取れなくて……そのくせ曖昧に頷いてしまった。
そうしながら、私はとりあえず和音に、「気に入ったんならそうしたらいいと思うよ」と答えたの。
そんな私たちに、「じゃあ和音、レジ、行ってくるね。ママはパパとここにいてね?」って和音が言ってきて、「ん、分かった」って、背後に立つ温和をちらりと見遣りながら返したの。
温和と待っていて、っていうのは恐らく和音の独立心の現れで。
私はそれを尊重してあげたいって思いつつ、でも彼女から目を離すのだけはダメって思ってじっと和音を目で追ったの。
てっきり温和も、私のそばでそうしているものだと信じて、和音がレジ前で背中に背負ったリュックサックからお財布を取り出すのを注視する。
***
和音は月に500円のお小遣いを、普段はしっかり貯めておいて、今みたいに欲しいものが出来た時にスパーンと使う男前なところのある女の子だ。
こういうお金の使い方も、何となくお兄ちゃんを彷彿とさせるの。
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