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「ママ?」
そばで見守ってくれているとばかり思っていた大好きな温和の姿が見えないというだけで、私はこんなにも不安になってしまう。
「どうしよう、和音……。パパとはぐれちゃった……」
言いながら、ハッとしてスマホを取り出した私は、温和の番号をコールしてみた。けれど、通話口から流れてきたのは「電源が切れているか電波が届かないため掛かりません……」という無情なアナウンスで。
それだけで私、血の気が引いてしまうぐらい不安になったの。
どうしよう。
温和、何か言ってたのに私、ないがしろにしちゃったから怒ったのかも?
心の中で泣きそうになって。それでも娘の前だからと、かろうじて涙を堪えて立ち尽くす私の腕を、和音がグイッと引っ張てきた。
「電話、ダメでも大丈夫よ、ママ。こういう時はアレ。えっと、そう! 迷子センターよ!」
にっこり笑う娘を見て、私はしっかりしなきゃと励まされる。
ああ、ダメな母親だ。これじゃ、立場が逆じゃない。
「奏芽がね、和音にいつも言うのよ。もしもお店なんかで奏芽とはぐれた時は、店員さんに聞いて、迷子センターとかサービスなんとかに連れてってもらえって」
サービスなんとかというのはサービスカウンターのことかしら。
そんなことを思いながら和音の言葉を聞いて、そういえば温和からも、“和音とはぐれたとき”にはそうするようにってそこの場所を嫌というほど叩き込まれたんだって思い出す。
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