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「なぁ音芽、目ん中の虹彩ってさ、人によって指紋みたいにそれぞれ模様が違うんだってさ」
休日の朝。
いつもよりのんびりじっくりのペースで新聞を読んでいた温和が、珈琲を飲みながらそんなことを言った。
虹彩、というのは眼球の中の色がついている部分のことみたい。
カメラに例えると、虹彩は絞りに相当するところらしい。
「そうなの?」
そろそろ朝食が出来上がる。和音を起こしてこなくちゃ。
そんなことを思いながらキッチンに立って、温和の雑学披露に生返事をした私の腰を、温和が後ろからギュッと抱きしめてきた。
「ひゃっ」
フライパンが火にかかっていて、中で目玉焼きがジュージューと音を立てて縁取りにキツネ色を宿している真っ最中。その音のせい?
背後に温和が近づいてきたことに、私は全然気付けなかったの。
「バカ音芽。俺が話しかけてんのに、何でこっち向かねぇんだよ?」
――ふたりきりの時ぐらい相手しろよ。
小さく付け加えられた、拗ねたようなその声音に、私は思わず笑いそうになる。
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