■瞳の中に映る虹/オマケ的SS③

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「なぁ音芽(おとめ)、目ん中の虹彩(こうさい)ってさ、人によって指紋みたいにそれぞれ模様が違うんだってさ」  休日の朝。  いつもよりのんびりじっくりのペースで新聞を読んでいた温和(はるまさ)が、珈琲を飲みながらそんなことを言った。  虹彩、というのは眼球の中の色がついている部分のことみたい。  カメラに例えると、虹彩は絞りに相当するところらしい。 「そうなの?」  そろそろ朝食が出来上がる。和音(かずね)を起こしてこなくちゃ。  そんなことを思いながらキッチンに立って、温和(はるまさ)の雑学披露に生返事をした私の腰を、温和(はるまさ)が後ろからギュッと抱きしめてきた。 「ひゃっ」  フライパンが火にかかっていて、中で目玉焼きがジュージューと音を立てて縁取りにキツネ色を宿している真っ最中。その音のせい?  背後に温和(はるまさ)が近づいてきたことに、私は全然気付けなかったの。 「バカ音芽(おとめ)。俺が話しかけてんのに、何でこっち向かねぇんだよ?」  ――ふたりきりの時ぐらい相手しろよ。  小さく付け加えられた、拗ねたようなその声音に、私は思わず笑いそうになる。
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