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「ん? なに? それとも音芽さんはここで和音にも見せらんないような、もっとエッチなことをしたいとか思ってるわけ?」
次いで意地悪く敬称混じりで続けられた言葉に、ぶわりと身体が熱くなった。
「ち、違っ!」
慌てて言ったら、いきなりズイッと顔を近づけられて、瞳を覗き込まれる。
「えっ、あ……」
蛇に睨まれたカエルの気持ちが分かる気がして、思わず視線をそらせようとしたら、「動くな」って命令された。
私は温和から命令口調で何か言われると、条件反射のように従ってしまうところがあるの。
「あ、あの……っ」
それでもじっと目を覗き込まれるのが居心地悪くて、恐る恐る抗議の声を上げる私に、「なあ、音芽も俺の目、見て?」って言われて。
「……な、んで……目」
ってつぶやく私に、「お前俺の話聞いてなかったのかよ?」って視線を外さずに怒られてしまう。
そこでさっき、温和が虹彩がどうのこうの言っていたことを思い出した。
「虹彩……?」
って聞いたら、「覚えてんじゃん」って言われて。
「お前の目、俺より色素薄いよな。虹彩んトコも、焦げ茶っていうより軽めの琥珀色って感じに見えるし」
見られているのは目なのに、何だかその奥の心を見透かされているような気持ちがしてくるのは何故かしら。
「は、温和の目はっ、吸い込まれそうな深い焦げ茶……だよっ」
それを誤魔化すように負けじと温和の瞳を凝視したら、中のギザギザの模様がキュッと動いて、虹彩の中心の一際濃いところ――黒瞳――がスーッと一回り大きくなった。
「あ、広がった」って思わずつぶやいたら、温和が、「お前のも、な?」ってクスクス笑うの。
お互いに顔を近づけ過ぎて、顔に影がさしてしまったみたい。
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