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「温和の目、綺麗ね……」
うっとりつぶやいたら「バーカ。綺麗っていうのはお前の目のようなのを言うんだよ」って。これ、何の褒め合い?
そういえば和音はどっち似の目なんだろう?
ふとそんなことを思ったところで、「ねぇ、パパもママもそんなに顔近付けて……何してるの?」って声をかけられた。
「ひぁっ!?」
思わず悲鳴にならない奇声を上げて温和から離れたら、すぐ横に立ったパジャマ姿の和音にキョトンとされた。
「あ、あの、こっ、これはねっ」
慌てる私に、温和はのほほんと落ち着いたもので。
「おはよう和音」
悪びれた様子もなく娘に時の挨拶をすると、
「なぁ和音、知ってるか? 目の中の黒いところがあるだろう? あそこの模様って、ひとりずつみんな違うんだってさ。パパとママはそれを確認してたんだよ。和音のも見せてごらん?」
とか。
さすがです、温和さんっ。
「何それ、面白そう! 和音もパパとママの見るっ!」
和音がにっこり笑うのを見て、私はとりあえずフライパンに乗っかったままの目玉焼きをお皿に盛り付けに戻った。
食卓について、睨めっこみたいに顔を突き合わせる温和と和音を横目に見ながら、何て幸せな朝なんだろうって思った。
***
この後、この〝虹彩を見つめ合う現象〟が、和音からお兄ちゃんへ、お兄ちゃんから鳥飼家とお兄ちゃんの彼女さんへ、彼女さんから彼女の通う大学へ、とどんどん伝播していくことになるなんて、この時の私には知るよしもなかったの。
END(2020/08/31)
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