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と、狭い路地なのに、後ろから乗用車が入ってきたらしく、エンジン音が近付いてきて。
俺たちがいるというのに、お構いなしに猛スピードで走ってきた車に、俺はすぐ横にいた音芽を抱き寄せて壁際に押し付けた。
「ひゃっ」
「危ね」
急に手を引かれた音芽が、びっくりしたように俺を見上げてきて。
その顔が、俺と目があった瞬間、照れて揺らめいたの、気のせいじゃないよな?
密着した身体と、汗で張り付いた服。俺を見つめる潤んだ瞳。赤く染まった頬。
匂い立つ、大好きな女の誘いかけるような甘い体臭。
俺は人がいないのをいいことに、音芽のあごに手を掛けて、その薄く開かれた形の良い唇を塞いだ。
「――、んんっ」
音芽が「外なのに」と言いたげにくぐもった声を出して俺の腕をギュッと掴んできた。それがまた色っぽくてそそられる。
音芽からのささやかな抗議を無視して、ぬるりと舌を擦り合わせるように彼女の熱い口中で蠢かせたら、抵抗するように俺の舌を押し返してきた。
そういう反応の全てがまた可愛くて、俺はその舌を絡めとって軽く吸ってやったんだ。
「や、ぁっ、……んっ」
ああ、ヤバいな、これ。
ここが外だというのを忘れて、さらにその先へ進みたくなっちまう。
俺は音芽の唇を解放すると、彼女を抱き寄せて耳元でささやいた。
「なぁ、音芽、和音を迎えに行くまでの残り数時間、家で続きするんで――いいよな?」
END
(2020/08/31-2020/09/05)
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