■早く食べ終わって?/オマケ的SS⑦

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 対して私の方は、一口しか(かじ)っていないアイスが、扇風機の風に煽られて溶け始めている。 「垂れちゃうっ」  慌てて垂れないように棒を上にしてもう一口齧ったら、温和(はるまさ)に腰を引き寄せられた。 「あ、ちょっと待って、今ダメっ」  アイスが溶けて落ちちゃいそうなの!  逆さまのままにしておくのも、棒から落ちてしまいそうで元に戻してみたものの、扇風機を止めなきゃ溶けるの早過ぎ!  ソワソワと慌てる私を横目に、温和(はるまさ)が瞳を細めた。 「ね。さっきの質問の答え、まだ?」  大好きな温和(はるまさ)に、真正面からじっと見つめられたら、私は彼に抗えない。 「き、嫌いじゃない……です」  それでも恥ずかしさに思わず視線を逸らしてから、うつむきがちにつぶやいた。 「ん? 何? 小さくて聞こえねぇな?」  意地悪く耳元に吹き込むように再度問いかけられて――。  そうこうしているうちに手に持ったアイスから、とうとう冷たい(しずく)が流れ始めた。  それを、グイッと手を押さえつけて(ひじ)から指先に向かって舐め上げながら、温和(はるまさ)が熱に浮かされたような目で見つめてくるの。  アイスを食べ終えたばかりだからかな?  温和(はるまさ)の唇も舌も冷たくてゾクゾクする……。  ってそんなことを考えている場合じゃなくて! 「なぁ音芽(おとめ)、それ、早く食べ終わって? お前のアイスで濡れ光った唇、すげぇそそられるんだよ」    掠れがちな艶めいた声でそう付け加えてから、「お前がそれ食い終わったら、今度は俺がお前を食う番な?」とか。  いや、だから夕飯っ!  心の中で抗議した瞬間、ホロリと崩れたソーダ味のアイスが、あろうことかオープンカラーになったワンピースの襟口(えりぐち)の中に落ちてきて、胸の膨らみの上で砕けた。 「ひゃっ」  冷たくて思わず悲鳴を上げたら、それを合図にしたみたいに温和(はるまさ)にソファに押し倒される。 「あー、こりゃ、大変だ。すぐ綺麗にしないとベタベタになっちまう」  嬉々とした様子の温和(はるまさ)に、ひとつずつボタンを外されながら、夕飯が食べられるのは何時になるんだろう?ってぼんやりと思った。       END(2020/09/18)
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