3101人が本棚に入れています
本棚に追加
/698ページ
対して私の方は、一口しか齧っていないアイスが、扇風機の風に煽られて溶け始めている。
「垂れちゃうっ」
慌てて垂れないように棒を上にしてもう一口齧ったら、温和に腰を引き寄せられた。
「あ、ちょっと待って、今ダメっ」
アイスが溶けて落ちちゃいそうなの!
逆さまのままにしておくのも、棒から落ちてしまいそうで元に戻してみたものの、扇風機を止めなきゃ溶けるの早過ぎ!
ソワソワと慌てる私を横目に、温和が瞳を細めた。
「ね。さっきの質問の答え、まだ?」
大好きな温和に、真正面からじっと見つめられたら、私は彼に抗えない。
「き、嫌いじゃない……です」
それでも恥ずかしさに思わず視線を逸らしてから、うつむきがちにつぶやいた。
「ん? 何? 小さくて聞こえねぇな?」
意地悪く耳元に吹き込むように再度問いかけられて――。
そうこうしているうちに手に持ったアイスから、とうとう冷たい雫が流れ始めた。
それを、グイッと手を押さえつけて肘から指先に向かって舐め上げながら、温和が熱に浮かされたような目で見つめてくるの。
アイスを食べ終えたばかりだからかな?
温和の唇も舌も冷たくてゾクゾクする……。
ってそんなことを考えている場合じゃなくて!
「なぁ音芽、それ、早く食べ終わって? お前のアイスで濡れ光った唇、すげぇそそられるんだよ」
掠れがちな艶めいた声でそう付け加えてから、「お前がそれ食い終わったら、今度は俺がお前を食う番な?」とか。
いや、だから夕飯っ!
心の中で抗議した瞬間、ホロリと崩れたソーダ味のアイスが、あろうことかオープンカラーになったワンピースの襟口の中に落ちてきて、胸の膨らみの上で砕けた。
「ひゃっ」
冷たくて思わず悲鳴を上げたら、それを合図にしたみたいに温和にソファに押し倒される。
「あー、こりゃ、大変だ。すぐ綺麗にしないとベタベタになっちまう」
嬉々とした様子の温和に、ひとつずつボタンを外されながら、夕飯が食べられるのは何時になるんだろう?ってぼんやりと思った。
END(2020/09/18)
最初のコメントを投稿しよう!