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結局洗い物を済ませたあと、あちこち気になったところを綺麗にしたりしていたら、音芽が温和を寝室に追い遣ってから1時間以上が経っていた。
当然、音芽の身体――ことに手足の指先――は冷え切ってしまっている。
「寒いっ」
小さく独りごちながら、それでも温和が眠っていたらいけないと思って、音芽はそっと寝室への扉を開けた。
薄暗い室内に足音を忍ばせて踏み入れると、規則的な寝息が聞こえてきて。
それを感じて「通りで」と思った音芽だ。
そもそも温和に意識があったとして、音芽がこんなに長い間放置されていることなどありえないのだから。
このところ少しでも時間ができれば、すぐに新妻である音芽をその腕に閉じ込めてイチャイチャしたがる温和のせいで、部屋が散らかりつつあるのが気になりながらも整理整頓が追いついていなかった。
それが、今日は何の障害もなく出来た時点で、もしかしたら、とは思っていた音芽である。
(やっぱり疲れてたのね……)
「結婚した途端、腑抜けになったと言われるのは嫌なんだ」と温和が言っていたのを覚えている音芽は、その言葉の通り、彼が今まで以上に気を張って仕事をしていたことを知っている。
学校でも頑張っているのに、家でも音芽のために良き夫であろうとしてくれる温和のことが、実は音芽はとっても心配だったのだ。
だからこんな風に、温和が“らしくなく”自分を置いて寝落ちしていても、音芽は一向に驚かなかったし、むしろ眠れる時に身体を休めてくれてよかった、とすら思った。
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