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「あのね、温和。今日はちょっと早めに帰ってクリスマスディナーの準備をしたいの。いい?」
12月25日金曜日。
今日は午後から有給休暇を取ったの、と音芽から聞かされた時、何ひとりで勝手に、と思った俺だったが、そんな風に言われたら嫌とは言えない。
昨日は2人でイタリアンレストランでクリスマスディナーを食べた。
それとは別に、音芽自身が俺に手料理を振る舞いたいのだと言ってはにかんだ。
花嫁修行の一環なのか、最近音芽は料理を頑張っている節がある。その腕試しもしてみたいんだろう。
「帰ったら私の部屋に来てね」
職員用下駄箱近くの用具入れ倉庫の陰で、音芽がそう言って俺のスーツの胸元をキュッと引っ張った。
引かれるままに姿勢を低くした俺に、目一杯背伸びして唇に軽く触れるだけのキスをくれる。
物陰とは言え学校の敷地内。
恥ずかしがり屋で奥手な音芽にしては目一杯のサービスだ。
ましてや俺を置いて帰る理由が〝ふたりのための〟クリスマスディナーの準備となれば、こっちもグッと我慢して譲歩せざるを得ない。
「気ぃつけて帰れよ? 寄り道はすんな?」
言いながら小さな身体を倉庫に押し付けるようにしてギュッと抱きしめる。
そうしておいて、耳元で「俺も仕事終わったら直帰するから……待ってて?」とささやいた。
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