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年明け早々音芽が「明けましておめでとう」も言わずにつぶやいた。
「あのね、温和。お願いがあるの」
少し嗄れたようにかすれた声が可哀想に思えて、軽い罪悪感から温和にしては珍しく
「言ってみろよ。今年初めてのお願い事だろ? 聞いてやるよ」
と即答してしまっていた。
ベッドの中。
娘の和音が寝静まってからつい今しがたまで。
せっかくの年越しなのだから、と手前勝手な理由を付けて音芽を一睡もさせずにベッドで啼かせまくった。
その名残りを身体のあちこちに留めながら、音芽が温和をじっと見つめてくる。
「本当? 約束だからね?」
そう念押しをして――。
音芽が恐る恐る口を開く。
「しばらくの間、胸、触らないで欲しいの」
うるりと瞳を潤ませて、恥ずかしさからか真っ赤な顔をした音芽から聞かされたお願い事に、温和は思わず「冗談だろ?」と口走ってしまう。
しかし温和のそんな反応に、音芽がゆるゆると首を振った。
「本気、だよ……?」
言って小さく吐息を落として、「お願い……だから……」と弱々しく付け足す。
「理由は?」
ここまで頑なになられては、さしもの温和もそう言うしかなくて。
だけど音芽は困ったように眉根を寄せて「何でも」と答えるばかり。
それどころか温和に背中まで向けてしまう始末。
その態度に新年早々拒絶されたような気分になって、ムッとした温和が「断る」と不機嫌に吐き捨てた。
可愛い嫁からの今年初めてのお願い事だけど、そんなのは却下に決まってんだろ?
何か欲しいとかならいくらでも叶えてやるけど。
そう思った温和だったけれど。
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