■初めてのお願い、聞いてくれる?/あけおめ短編

2/3

3102人が本棚に入れています
本棚に追加
/698ページ
 年明け早々音芽(おとめ)が「明けましておめでとう」も言わずにつぶやいた。 「あのね、温和(はるまさ)。お願いがあるの」  少し()れたようにかすれた声が可哀想に思えて、軽い罪悪感から温和(はるまさ)にしては珍しく 「言ってみろよ。今年初めてのお願い事だろ? 聞いてやるよ」  と即答してしまっていた。  ベッドの中。  娘の和音(かずね)が寝静まってからつい今しがたまで。  せっかくの年越しなのだから、と手前勝手な理由を付けて音芽を一睡もさせずにベッドで()かせまくった。  その名残りを身体のあちこちに留めながら、音芽が温和(はるまさ)をじっと見つめてくる。 「本当? 約束だからね?」  そう念押しをして――。  音芽が恐る恐る口を開く。 「しばらくの間、胸、触らないで欲しいの」  うるりと瞳を潤ませて、恥ずかしさからか真っ赤な顔をした音芽から聞かされたお願い事に、温和(はるまさ)は思わず「冗談だろ?」と口走ってしまう。  しかし温和(はるまさ)のそんな反応に、音芽がゆるゆると首を振った。 「本気、だよ……?」  言って小さく吐息を落として、「お願い……だから……」と弱々しく付け足す。 「理由は?」  ここまで(かたく)なになられては、さしもの温和(はるまさ)もそう言うしかなくて。  だけど音芽は困ったように眉根を寄せて「何でも」と答えるばかり。  それどころか温和(はるまさ)に背中まで向けてしまう始末。  その態度に新年早々拒絶されたような気分になって、ムッとした温和(はるまさ)が「断る」と不機嫌に吐き捨てた。  可愛い嫁からの今年初めてのお願い事だけど、そんなのは却下に決まってんだろ?  何か欲しいとかならいくらでも叶えてやるけど。  そう思った温和(はるまさ)だったけれど。
/698ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3102人が本棚に入れています
本棚に追加