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1.温和のおねだり
「俺さ、今度の誕生日、音芽にしてもらいてぇことがあんだけど」
5月10日の温和の誕生日を数日後に控えた初夏の夕方。
当の温和が、仕事帰りの車中で助手席に座る音芽へ唐突にそう切り出した。
「して、もらいたいこと?」
前方を見つめてハンドルを握ったままの温和の端正な横顔を見つめながら、音芽が彼の言葉を復唱して小首を傾げる。
「そ。別に難しいことじゃねえよ。お前はただ俺のそばにいてくれりゃーいい」
それは「してもらいたいこと」を実行できていることになるんだろうか?
音芽がふと疑問に思ったのも無理はない。
「そばにいるだけなのに、何かしてあげてることになるの?」
温和の真意が掴めないから、音芽は段々不安になってきた。
大抵こんな風に秘密めいた物言いをする時の温和は、ハッキリと意思表示をするときよりタチが悪いと相場が決まっているからだ。
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