1.温和のおねだり

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***  誕生日当日は温和(はるまさ)の部屋に来るように言われた音芽(おとめ)だったけれど、身ひとつで来てくれたんで構わないという温和(はるまさ)の言葉に、正直かなり戸惑った。  アパートで隣同士に住んでいる音芽(おとめ)温和(はるまさ)なので、何かいるものがあれば取りに帰ればいいだろ?ということなのかもしれない。  でもプレゼントは?  全くなしというわけにはいかないよね?  要らないと言われても音芽自身の気がすまないのだ。  温和(はるまさ)と同日生まれの兄に相談しようかとも思ったけれど、下手な聞き方をしたらヤブヘビになりそうでつつけなくて。  とりあえず兄にはメールで「カナ(にい)、お誕生日おめでとう!」というメッセージだけ送っておいた。プレゼントは後日でいいかな、と思いつつ。  散々悩んだ末、音芽は前日から仕込みをしてディナーロールを焼いたりシチューを煮込んだり、予め焼いておいた小さなバースデーケーキのスポンジにデコレーションをしてみたり、とフルタイムで仕事をこなした後にしてはそこそこに頑張った。  プレゼントは要らないと言われたけれど、何もあげないとか無理だから。  温和(はるまさ)が職場や家で使えるような、自分とお揃いのマグカップを用意した。  〝何となく〟というのは、あからさまにペアだとバレたらひねくれ者の温和(はるまさ)が、恥ずかしがって使うのを躊躇(ためら)うかな?と思ったから。  ちょっとした色違い。ちょっとしたデザイン違い。そんなマグカップを、ネットで探して取り寄せて、ラッピングは自分で頑張った。
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