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「あ、あのっ。お祝いのお料理っ。作ってみたの」
一気に運ぶのは無理だったので、とりあえず温和の家のチャイムを鳴らしてケーキだけ先に渡してから。
「たくさんあるから運ぶの手伝ってくれる?」
シチューの入ったお鍋とか、焼き立てパンが積み重ねられたバスケットとか。
温和の好きなミニトマトを少し多めに入れた野菜サラダのボールとか。
そういうのを温和の部屋まで運ぶのを手伝って欲しいのだと、部屋の主を見上げて音芽が小首を傾げたら、温和が瞳を見開いたのが分かった。
「何もしなくていいって言ったのに……。お前、ホント俺のこと好きだよな」
意地悪くニヤリと笑われて、音芽は図星だけど恥ずかしくて真っ赤になる。
「は、温和はっ。私のこと……」
好きじゃないの?と言いたかったのだろう。
でも、言葉半ばで恥ずかしそうにゴニョゴニョと語尾を濁した音芽に、温和が小さく笑う。
そうしてすぐにスッとかがみ込むようにして唇を音芽の耳元に寄せると、
「言われなくてもお前と一緒に誕生日を過ごしたいって言ってんだ。分かんだろ?」
わざと耳孔に吐息を吹き込むみたいにささやいた。
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