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「ああ、嫌いじゃねぇな」
音芽のなけなしの勇気を無下にして、さっきと同じ言葉を繰り返した温和は、
「ほら、モタモタしてたらクリームが溶けてきちまうだろ。さっさと部屋の鍵開けろよ」
話題を逸らしてそっぽを向く。
音芽はそんな大人気のない温和の言葉に、大人しくドアの鍵を開けると、温和からケーキを受け取ってキッチンに置かれた冷蔵庫を開けた。
ケーキを入れるスペースを作るため、サラダボールに入ったミニトマトたっぷりのサラダを食卓に置くと、
「私……」
出来た隙間にケーキを仕舞いながらポツンとつぶやく。
温和が、そんな自分の声に視線を投げかけてきたのを確認してから、音芽は続きの言葉を発した。
「私……温和のそういうひねくれたところが好きじゃないです」
温和の物言いを逆手に取って「嫌いです」とは言わずにおいた。
でも、音芽にしては十分すぎるぐらいの反旗だ。
温和は珍しく反抗的な音芽の言葉に大きく瞳を見開くと、「バカか」と言おうとして――。
音芽の至極真剣な眼差しに、思わずその言葉を飲み込む。
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