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そう言えばゴタゴタに紛れて、せっかく綺麗にラッピングした、温和へのプレゼント用マグカップを部屋に置き去りにしてきてしまったことを思い出した音芽である。
「あ、の、温和。私、一旦部屋に戻ってきて……いい? 忘れもの……しちゃって」
(あっちに行って、ひとりになってから、いま一度状況の把握に努めて参りますっ)
心の中でビシッと敬礼してそう付け加えながら温和を見上げた音芽だったけれど。
「音芽、俺との約束、忘れたのか?」
不意に身を屈めた温和に、耳元、低めた声音で囁かれて、音芽はたまらずビクッと身体を揺らした。
――お前はただ俺のそばにいてくれりゃーいい。
過日お強請りされた、温和からの誕生日の要求を思い出した音芽は、
「わ、忘れてな、んか……」
温和の声音とともに耳朶を掠めた吐息に、思わず耳を押さえて真っ赤になりながらしどろもどろでつぶやく。
「だったら、部屋には戻るな」
わかったな?と再度鼓膜を直接揺らすような距離で念押しをされた音芽は、一生懸命コクコクとうなずいた。
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