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音芽が着替えを終えて出てきた気配を察したらしい温和は、ドレスに身を包んだ彼女を見るなりほぉっと深い溜め息を落とす。
「やっぱ似合うな、音芽。すげぇ綺麗だ」
普段は素直じゃない温和なのに、興奮の余りだろうか。ストレートに音芽を称賛して、嬉しそうにギュッと小柄な彼女を腕の中に抱きしめた。
「あ、あの、温和。私にこんなの着せて一体……」
何をするつもりなの?
音芽が不安そうに温和を見つめるのも無理はない。
何せ、煌びやかなお姫様スタイルに変身したのは音芽だけ。
自分が着替えている間に、もしかしたら温和もドレスアップしてくれているんじゃないかと期待した音芽だったけれど、いま、こうして音芽を抱きしめている彼は、彼女の期待に反して先ほどと寸分違わぬ服装――長袖Tシャツにスラックスといった、カジュアルスタイル――のままだった。
温和の真意を計りかねて、音芽はひとり、にわかに不安になったのだ。
そんな音芽に、温和がニヤリと笑う。
そうして、音芽を真正面からじっと見詰めて口を開いた。
「音芽、今日はな――」
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