4.Play with dolls*

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「前に言ったよな? 今日のお前はただ俺のそばに居ればいい。――簡単だろ?」  意地悪く耳元でそう問いかけられて、音芽(おとめ)は涙目になった。 「おかしいな? 人形って泣くっけ?」  途端温和(はるまさ)にそれを(とが)められて、目元に浮かんだ涙をペロリと舐め取られる。  温和(はるまさ)の舌先の感触に、思わず声を出しそうになって、音芽は慌てて唇をキュッと引き結んで耐えた。  どんなに理不尽に思える要求でも、音芽にとって、愛する温和(はるまさ)からの〝命令〟は絶対だ。  ましてや今日は温和(はるまさ)の誕生日。  音芽には彼の希望を叶えなければならないという気持ちが、いつもより強くて。  何で?と頭の中は温和(はるまさ)からの突拍子もない求めに対して疑問符で一杯なのに、それとは裏腹。  音芽の身体は温和(はるまさ)に従順であろうと努力するのだ。 「可愛いな、音芽」  温和(はるまさ)が音芽の横髪を耳に掛けるように避けてから、イヤリングで飾られた、剥き出しの耳朶に舌を這わせる。  途端、耳許(みみもと)で耳飾りが揺れて、シャラ、という(かそ)けき音が、水音の合間を縫うように音芽の耳に届いた。  動いてはいけないと言われている音芽は、その刺激に堪えるために(こぶし)を握りしめることも、ギュッと目を閉じることも許されない。 「そうだ。まばたきだけはしていいからな? お前、目おっきいし、乾いちまったら大変だ」  そんな音芽を見て、クスクス笑いながら温和(はるまさ)がそう言って。  その言葉に、ギュッと目を閉じるのはありだろうか?と音芽が考えたのを阻止したいみたいに「ただし、最小限、な?」と付け加えてくるあたり、温和(はるまさ)は本当に意地悪だ。  そうして、嫌になるぐらい音芽のことをよく分かっている。
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