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「実は私、今ちょっと風邪気味なんだけど……温和が過保護なくらい心配しちゃって……病院に行けってうるさいの」
まぁ、そりゃあ温和の言うことも分からなくはねぇな。
俺だって身重の音芽が風邪だと聞いたら、「とりあえず診てもらって来い」と言いたくなる。
「行けばいいだろ。ん? それとも何? 音芽ちゃんはもしかしてお兄ちゃんに診てもらいたいの?」
わざと「俺」と言わずに「お兄ちゃん」と意地悪く言ってククッと笑ったら、電話口で音芽が「そんなわけないでしょ!」とムキになる。
ホントこういうところ、うちの妹は進歩しねぇな。
そこが可愛くもあるんだけど。
「じゃあさ、何?」
改めて仕切り直したら、モゴモゴと歯切れ悪く口ごもるんだ。
「早く用件言わねぇと、俺、昼飯食いそびれちまうんだけど?」
まだ午後の診察開始まで数十分ゆとりがあるのを分かっていて、わざとそう言って急かしたら、音芽が恐る恐ると言った調子で口を開いた。
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