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温和はまるでそんなこと頓着しないみたいに音芽のあごを少し乱暴に持ち上げると、細い腰をグイッと自分の方へ引き寄せるようにして彼女の唇を塞いだ。
「はる、……んっ」
温和!と呼ぼうとした音芽からの抗議の声は、吸い込まれるように彼の口の中へ消える。
軽いキスならまだしも、しっかり舌も差し込まれるディープなものをされながら、音芽は階数表示が気になって、目を閉じることが出来ない。
別のフロアを通過するたび、誰かが乗り込んできやしないかと冷や冷やして死んでしまいそうだ。
それに加えて、日頃は見えないはずの口付けの最中の温和の熱に浮かされた表情までも見えてしまって、音芽は激しく戸惑ってしまう。
――温和っ、貴方、いつもキスの時目、開けてたのっ!?
薄く音芽を見下ろすように開かれた温和の視線と目が合ってしまって、音芽は思わずギュッと目を閉じた。
――恥ずかしいっ。
まぶたを閉ざしても、網膜に焼きついた温和の艶めいた表情が消えてくれなくて、音芽はただただ照れ臭くて。
毎回キスをするたびに、温和からあんな風に表情を観察されていたのかもしれないと思うと、顔から火が出そうになる。
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