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「なぁ音芽、せっかく来たんだし景色堪能しようぜ」
音芽の膨れっ面なんてどこ吹く風。
温和はさして意に介した風もなく音芽の手を取ると、ぐいぐい引っ張って木道の上を歩き出す。
ややして、端っこの柵のところまでたどり着くと、温和は音芽と向かい合わせに立った。
「なぁ音芽。こっち向けよ」
言って音芽の視線を自分に向けさせると、声を低めて問いかける。
「お前の全ては俺のものだろ?」
真正面からじっと射すくめるように見つめられて、音芽はソワソワと瞳を揺らせた。
「返事は?」
うなずくことを強要するように畳みかけられて、温和からの命令には絶対服従が染み付いている音芽は小さく首肯する。
「音芽、ちゃんと声に出して聞かせろ」
なのに温和はそれだけでは納得がいかないとばかりに、音芽をさらに追い詰める。
「……はい。私は……温和のものです」
消え入りそうな声でそうつぶやいたら、
「だったらくだらねぇこと気にすんな。お前は黙って俺に溺れてりゃいいんだよ」
言うなり噛み付くような口付けを落とされる。
エレベーターの時と違って、周りに遮蔽物のない開けた場所。
もしも誰かが来たならば、今度こそ簡単に見られてしまう。
ねっとりと口の中をかき混ぜられるようなキスをされながら、音芽は涙目で懸命に温和にしがみついた。
ややして唇を解いてくれた温和が満足そうに微笑んで、「帰るぞ。和音が待ってる」と、音芽の唇を濡らす唾液を指先で軽く拭う。
その感触でさえも、音芽にはたまらない刺激になると温和は知っているんだろうか?
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