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先程と同じようにエレベーターに乗り込むと、わざと聞こえよがしに「エレベーターってさ」とつぶやく温和。
「――?」
操作パネルの「1」階ボタンと、「閉」ボタンを押す彼を見つめながら、続くはずのその先を音芽は大人しく待った。
温和はそんな音芽にニヤリと意地悪く微笑むと、天井を指さしながら
「監視カメラ付いてるよな」
言って、音芽の瞳を見開かさせる。
「さっきの箱内でのキスも、実は誰かに見られてたかもな?」
さも、そうであったらいいと言う風に聞こえる言い方をする温和に、音芽は真っ赤になって瞳を潤ませた。
「たまにさ、『お前は俺のだ!』って誰彼構わず叫びたくなるんだよ」
ギュッと音芽をその腕に抱き寄せると、
「それもこれも、可愛すぎるお前が悪い」
温和は音芽の耳元で、声を低めてそうささやいた。
――イチャイチャしてるところを誰かに見られるとか恥ずかしくて絶対に嫌!
なのにその一言だけで何もかも許せてしまう気持ちになってしまう音芽は、温和から多分一生離れられない。
離れる気なんて元よりないのだけれど、そんな風に自覚させられると、公共の場だと言うのに、キュンと下腹部が切なく疼いて、音芽は自分が身も心も温和のものなのだと実感させられる。
「温和の、バカ……」
今この瞬間も、誰かに見られているかもしれないと思うと、恥ずかしくてたまらないのに……。
音芽は温和の腕を振り解くことが出来ない。
そんな音芽の頭の中、先程屋上庭園で温和から言われた、「くだらねぇこと気にすんな」という低音ボイスが、何度も何度もこだました。
END(2021/05/14-5/15)
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