スタ特①『不機嫌な彼と、鈍感な彼女』

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「ね、温和(はるまさ)。しりとりしない?」  問いかけておきながら、彼の返事を待たずに「えっとねー、梅雨」と外の雨を見つめながら思いついた言葉を告げる。 「俺はやるなんて一言も……」  不機嫌そうに温和(はるまさ)が返すのへ、「わー、勝てる自信ないんだぁー」と、わざと彼の神経を逆撫でするような発言をして、挑発する。 「は? 誰がお前なんかに負けるかよ。梅雨って言ったよな。じゃあ、――夢」  ほらね、乗ってきた。温和(はるまさ)ってばちょろいんだからぁー。  ふふふ、と心の中でほくそ笑む。 「えっとね、じゃあ、綿棒」 「梅」  何? また「め」? 「め、め、め……。そうだ! メキシコ!」  どうだ、ちゃんと返せたぞ!?  ふふんっと得意そうに温和(はるまさ)を見やったら、さして面白くもなさそうな顔をして、「米」と返された。  くっ、またしても、め! 「め、め……。えっと……」 「降参ならとっとと負けを宣言しな? 言い忘れてたけど、やるからには負けた方にはペナルティな」  言って、温和(はるまさ)が一瞬だけ口角を引き上げたのが分かった。  く、悔しいっ! 負けてたまるかっ! 「め、め。……えっと、えっと……。あ! 目隠し!」 「東雲(しののめ)」  私、一生懸命考えて答えをひねり出したのに、何でそんな即答してくるの? しかも、御丁寧に、またしても「め」。  窓外を見つめながら、私は必死に考える。  負けるのは嫌。だってペナルティって何されるか分からないもの!  いつの間にか、あんなに感じていたはずの眠気は吹き飛んでしまっていて。  私はそんなことも忘れて頭をフル回転させる。 「あ、そうだ! めだか!」  めだか。学校の理科室にいるわ。私、時々癒されに行ってる。  いくら何でももう、「め」は返してこないでしょ?  そう、思っていたのに――。
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