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「ね、温和。しりとりしない?」
問いかけておきながら、彼の返事を待たずに「えっとねー、梅雨」と外の雨を見つめながら思いついた言葉を告げる。
「俺はやるなんて一言も……」
不機嫌そうに温和が返すのへ、「わー、勝てる自信ないんだぁー」と、わざと彼の神経を逆撫でするような発言をして、挑発する。
「は? 誰がお前なんかに負けるかよ。梅雨って言ったよな。じゃあ、――夢」
ほらね、乗ってきた。温和ってばちょろいんだからぁー。
ふふふ、と心の中でほくそ笑む。
「えっとね、じゃあ、綿棒」
「梅」
何? また「め」?
「め、め、め……。そうだ! メキシコ!」
どうだ、ちゃんと返せたぞ!?
ふふんっと得意そうに温和を見やったら、さして面白くもなさそうな顔をして、「米」と返された。
くっ、またしても、め!
「め、め……。えっと……」
「降参ならとっとと負けを宣言しな? 言い忘れてたけど、やるからには負けた方にはペナルティな」
言って、温和が一瞬だけ口角を引き上げたのが分かった。
く、悔しいっ! 負けてたまるかっ!
「め、め。……えっと、えっと……。あ! 目隠し!」
「東雲」
私、一生懸命考えて答えをひねり出したのに、何でそんな即答してくるの? しかも、御丁寧に、またしても「め」。
窓外を見つめながら、私は必死に考える。
負けるのは嫌。だってペナルティって何されるか分からないもの!
いつの間にか、あんなに感じていたはずの眠気は吹き飛んでしまっていて。
私はそんなことも忘れて頭をフル回転させる。
「あ、そうだ! めだか!」
めだか。学校の理科室にいるわ。私、時々癒されに行ってる。
いくら何でももう、「め」は返してこないでしょ?
そう、思っていたのに――。
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