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「カメ」
って即行で返してくるとか……温和の意地悪っ!
「もう、温和、さっきからメ、ばっかり返してきて……ずるい! この冷血漢!」
「は? 勝負にずるいもクソもねーだろーが。こういうのを戦略っつーんだよ。そんなのも分からないのか、バカ音芽。――で、お前、降参でいいんだよな?」
私の方をチラリと見てくる温和の顔がどこか嬉しそうに見えて……。
すごく悔しい。
でも……もうダメ。「め」、ネタ切れだ。
「こ、降参です……」
グッと喉を詰まらせたように声を絞り出したら、「だったらペナルティ受けてもらわねぇとな」とニヤリとされた。
嫌だ、怖いっ。
怖いくせに一生懸命虚勢を張って彼を睨みつけるようにして牽制したら、温和がシフトレバーをPに入れてサイドブレーキをかけた。
車は未だベッタリ大渋滞で、1ミリも動きそうにない。
と、ガチャッとシートベルトが外される小さな金属音がして、温和が私の上に覆いかぶさってきた。
次いで座っているシートがグッと倒されて、私は半ばパニックになってしまう。
「やっ、ちょっ、はっ、温和っ!?」
いくら窓ガラスが湿気で磨りガラスみたいに曇りがちになってきているとはいえ……こんなところで何をする気っ!?
真っ赤になって温和を押し戻そうとしたら、
「何を期待したんだか知らねえけど――勝者からの命令だ。遠慮なく寝ろ」
と言われてしまった。
言葉の通り、私のシートを倒したら、何事もなかったように運転席に戻ってシートベルトを装着し直す温和。
「は……、はる、ま……さ?」
私が眠くてたまらなかったの、見抜いていたの?
色々あって、今は眠気、引いてしまっているけれど、目を閉じれば多分すぐにでもまどろみが戻ってくるだろう。
「もう、温和の……バカ」
私は両手で顔を覆うようにして、頬が赤くなっているのを隠してから、照れ隠しのようにそっとそうつぶやいた。
そうしてから、あ、そういえば、め。まだ「目」って言葉は言い返していなかったなぁと思った――。
END(2020/02/24)
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