特典④『雨とピアノとハムスター』

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--------------------- episode1:彼女はネズミが苦手 --------------------- 「週末、両親が父親の小児科学会のついでに旅行に行くことになったの」  と音芽(おとめ)が言った。  それがどうしたんだ?と思った俺だったけれど、音芽(おとめ)が言い難そうにもじもじするのを見て、何となく察しがつく。 「家の番でも頼まれたのか?」  聞けば、子供たちが巣立ったのを機に飼い始めたハムスターの面倒を見て欲しいと頼まれてしまったのだと音芽(おとめ)が泣きそうな顔をする。 「ハムスター?」 「うん。小さい子じゃなくてゴールデンだから結構大きいんだって」  言ってフルフルと身体を震わせるのを見て、ああ、と思う。 「お前、生き物苦手だったっけ?」  聞いたら、「ねずみだけはダメなの」と潤んだ目をして身体をすくませた。  そういえば子供の頃、奏芽(かなめ)と俺と音芽の3人で、溝探検――溝に沿って歩くだけ――をした際、音芽の足の上をドブネズミが通過したことがある。  別に噛まれたわけでも何でもなかったんだが、音芽にとってその経験は相当なトラウマになったらしい。  子供の頃から生き物全般苦手ではないくせに、以来、ねずみだけは怖がるようになったのを思い出す。 「そ、それでねっ。もしっ。もしもっ。温和(はるまさ)さえ迷惑じゃなか……」 「一緒に帰ってやるよ」  皆まで言わせずそう言ったら、音芽が心底ホッとした顔をした。  ハムスターとネズミが俺の中ではイコールにはならないんだが、苦手なものというのは往々(おうおう)にしてそんなものなのかもしれない。
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