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episode2:*雨
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梅雨に入ったと天気予報が言っていただけあって、週間天気を見ると、向こう1週間ぐずついた空模様が続くらしい。
もちろん、音芽の実家に泊まる日もガッツリ雨マークのようで。
降水確率90%の文字に、我知らず溜め息が落ちる。
まぁ週末、音芽とどこかへ出かける予定があったわけじゃなし、雨なら雨で家の中でしっぽり、というのもありっちゃーありだ。と言うかそれしかねぇな。
ただ問題は――。
***
「父の車、旅行中はどうせ帰ってこないんだし、うちの駐車スペースに停めちゃえばいいのに」
実家マンション近くの――と言っても徒歩5分はかかる――コインパーキングに車を入れたら、音芽にプーッと頬を膨らまされた。
まあ、そりゃーそうだ。
俺だってこの土砂降りのなか歩くのは躊躇われる。
けど、な。
「下手にマンションの駐車場に車入れたりしたら、俺が来てるのバレるだろーが」
うちの親だって馬鹿じゃない。
さすがに一人息子の車ぐらい記憶してるはずだ。
「それとも何か? 俺の条件、忘れたのか?」
助手席で頬を膨らませる音芽を睨んでそう言ったらしゅんとして黙り込んだ。
「わ、忘れてません」
ややしてポツンと若干納得のいってない感じで告げられたのが可愛くて、俺はシートベルトを外して音芽に覆いかぶさった。
「んっ」
温和、ここ、駐車場っ、とか言いながら、それでも俺を押し除ける力は弱くて、音芽が本気で抵抗する気がないのはバレバレだ。
「土砂降りだし問題ねぇだろ」
外は篠つく雨。
窓外はザーザー降りの雨に霞んで数メートル先だって霞んで見える。
車内で少々何をしてたって、見えやしないだろう。
それに――。
相当のもの好きでもない限り、こんな雨の中に長居はしたくないはずだ。
出歯亀の心配もない。
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