特典④『雨とピアノとハムスター』

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 俺は後部シートに忍ばせておいた傘を手に取ると気合を入れてドアを開けた。  途端ザーーーッという雨音が強くなって、あちこちから跳ね返ってくる水滴で肌が冷んやりする。  傘とかさしても意味ねぇな、これ。  ふと思った俺は一旦ドアを閉めて音芽(おとめ)に問いかけた。 「なぁ、一度車出して、お前と荷物だけマンションに下ろしてやろうか?」  最初からそうすべきだったのに出来なかったのは、俺が音芽を手放すのを躊躇(ためら)ったから。  けどこの雨ん中、彼女を歩かせるのはさすがに忍びないな、とか思えてしまって。  なのに音芽のやつ、うつむいてポツンと「イヤだ」って言ってきて。  俺が「なんで?」って聞いたら、「温和(はるまさ)と離れたく、ない」とか。お前、俺をどんだけ煽る気だ。  俺は音芽の愛らしいわがままに小さく笑うと、「じゃ、傘ささずに走るか?」とかさっき思った無謀な質問を投げかけてみた。  音芽はその提案に、小首をかしげてちょっと考えてから「それも気持ちよさそうだけど……荷物もあるし、その……できたら……」  言って、俺が手にした傘を見る。
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