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俺は後部シートに忍ばせておいた傘を手に取ると気合を入れてドアを開けた。
途端ザーーーッという雨音が強くなって、あちこちから跳ね返ってくる水滴で肌が冷んやりする。
傘とかさしても意味ねぇな、これ。
ふと思った俺は一旦ドアを閉めて音芽に問いかけた。
「なぁ、一度車出して、お前と荷物だけマンションに下ろしてやろうか?」
最初からそうすべきだったのに出来なかったのは、俺が音芽を手放すのを躊躇ったから。
けどこの雨ん中、彼女を歩かせるのはさすがに忍びないな、とか思えてしまって。
なのに音芽のやつ、うつむいてポツンと「イヤだ」って言ってきて。
俺が「なんで?」って聞いたら、「温和と離れたく、ない」とか。お前、俺をどんだけ煽る気だ。
俺は音芽の愛らしいわがままに小さく笑うと、「じゃ、傘ささずに走るか?」とかさっき思った無謀な質問を投げかけてみた。
音芽はその提案に、小首をかしげてちょっと考えてから「それも気持ちよさそうだけど……荷物もあるし、その……できたら……」
言って、俺が手にした傘を見る。
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