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「できたら?」
音芽が言いたいこと、実際はわかっているくせにわざと気付かない振りをする。
「その、温和と……相合傘が……してみたい、です」
真っ赤になってうつむく音芽に、俺は
「わがままなヤツめ」
そう言いながら霞むような雨の中に傘をさして躍り出る。
後部座席から荷物を取り出して持つだけで、もう足元とかびしょ濡れだ。
でもま、それはどうでもいいんだ。
助手席に回って音芽の手を取ってそっと雨の中に彼女を連れ出すと、「傘、意味ねーな」言いながら2人でクスクス笑い合う。
俺は荷物を持っていない側に音芽を抱き寄せると、なるべく彼女が濡れないように傘を傾けた。
「温和と、荷物の方が大事」
でもすぐに音芽にそんな抗議の声とともに傘を押し戻されて、はぁっと溜め息。
荷物はともかくとして、俺にとってはお前の方が大事なんだと分かれよ、バカ音芽。
こんなことなら荷物だけでもやっぱりマンションに置いてから雨の中に出るべきだった。
そんな風に思ったけれど、こういう不自由な感じも音芽と一緒なら悪くない。
そんな風に思えるから不思議だ。
「マンション着いたら着替え、な」
言いながら、その前に身体を温め合わねぇとな、とか心の中でそっと付け加えてみる。
音芽は俺の目論見を知ってか知らずか、「この雨、結構冷たいし、お風呂も溜めなきゃね」ってやっぱりお前もソレ、期待してたりする?
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