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episode3:*まぁやっぱりそうなるわけで
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幸い、隣に住む俺の親に見つかることなく鳥飼家に入ることができた。
当然だが2人とも結構びしょびしょに濡れそぼっていて。
音芽が「風邪ひいちゃうね」と靴を脱ぐなり風呂の湯張りに向かおうとするのを、俺は思わず手を引いて止めてしまう。
「温和?」
きょとんとした顔をするのへ、さっき車ん中であんなに感じてたくせに何でそんな普通に出来るんだよ、と恨めしく思う。
今すぐにでも音芽を抱きたくて堪らないのは俺だけかよ。
思うと途端に悔しくなって。
靴を脱ぎ捨てて上がり框に足をかけると、廊下を数歩進んでいた音芽を引き寄せて、腕の中に抱きしめる。
背中を俺に預ける形で捕らえられてしまった音芽から、甘い香りがふわりと漂った。
さすがにこの状態では、いつものように「分からねぇんならいいよ」と拗ねることも出来そうにない。
この引っ込みの付かなさ加減はある意味俺らしくないな、と心の片隅で自嘲した。
「俺、今すぐお前が欲しいんだけど……」
でも、我慢できないもんは仕方ないだろ。
普段からは考えられないぐらいストレートに自分の気持ちを吐露した俺は、いっそ清々しいくらいだ。
「私が、欲、し……っ?」
俺の言葉をぼんやり繰り返してから、その意味にやっと気づいたらしい音芽が、耳まで真っ赤にしてうつむいた。
ちょっ、それ可愛すぎだろ。どんだけ俺を煽る気だよ。
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