甘いお誘い

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 うー。でもね、鶴見(つるみ)先生。貴方に話したかどうかは覚えていませんけれども……温和(はるまさ)は幼い頃から一緒に育った兄みたいな存在なので。やっぱり他の異性とは違うんです。  それに、それにっ。私、あの意地悪な温和(はるまさ)の事が悲しいくらい大好きなので……あわよくば恋人に見られたいとか思っていたりもしてまして……ごにょごにょ。  つ、つまりは……温和(はるまさ)だけはっ、他の皆さんと同じラインでは語れないのよっ。  心の中でそんな言い訳をあれこれ連ねて、一向に動こうとしない私に(ごう)を煮やしたらしい鶴見先生が、「鳥飼(とりかい)先生、さっき話してくれた甘えん坊の末っ子気質はどこに行きました!? ほら、どうぞ」と強制的に彼の腕に手を回す格好にされてしまった。  絡められてしまったものを振り解くのはさすがに大人気なく思えてしまって――。「では……お言葉に甘えて……」と小さくつぶやくと、私は鶴見先生に支えになってもらって歩き出す。 「お先に失礼します」  職員室に残っていらっしゃる他の教職員の皆さんへ会釈をして、二人三脚のような歩みで廊下へ出た。  温和(はるまさ)の時には感じなかった歩きにくさがあるのは何故だろう。歩くテンポが微妙に合わないから? それとも私の、相手に頼りたいと言う気持ちの差――?  ギクシャクとした足取りでどうにかこうにか歩を進めながら、職員用の下駄箱がある通用口をくぐり抜ける。……と同時に鶴見先生が「あ……」と小さくつぶやいて立ち止まられて。  私は彼に腕を引かれる形でよろめいた。 「鶴見、先生?」  何事だろう、と彼の身体を避けるようにヒョコッと顔を覗けてみて――。  私は息を飲んで身動きできなくなってしまった。
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