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「温和の……エッチ」
ソファにしなだれかかるようにして俺の方を気怠げな目で見つめながら、音芽がぼやく。
俺はその言葉に聞こえていて届かなかったフリをすると、リビングの片隅に置かれたケージに近付く。
「なぁ、これが例のヤツ?」
肩にかけたタオルで髪の毛を拭きながら音芽を振り返ったら、小さく身震いをしてうなずいた。
「こっち、連れてこないでね?」
瞳を潤ませながらそんなことを言われたら、逆にそうしたくなるじゃねぇか、とか思ってしまう俺はガキだろうか。
まぁ実際にはハムスターにも音芽にも良くなさそうなのでやりはしないけど。
「名前は?」
問えば「ドレミ」と返った。
某国民的人気キャラの妹の名前ドラミ、に聞こえたけど多分違うな。
名付け親はきっと音芽達の母親だ。
「ドレミ?」
確認したらギュッと身体を縮こまらせながら音芽がうなずく。
名前からすると……多分メス?
思いながら見れば、オスなら特徴的な出っ張ったお尻――本当は睾丸だが――をしていないのでビンゴだろう。
「音芽に奏芽にドレミ……」
何の気なしにつぶやいて、思わず笑ってしまった。
見事なまでに音楽関連で統一されている。
ドレミはふかふかの木屑のベッドの中心で、気持ちよさそうに丸くなっていた。
後で餌を変えてトイレを綺麗にしてやろう。
ハムスターは便はともかく尿だけはトイレにしてくれるから、まぁ比較的掃除は楽な部類の生き物だ。
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