特典④『雨とピアノとハムスター』

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--------------------- episode5:I Do It For You ---------------------  マンションの構造が高級すぎると、外がどんなに土砂降りでも一切の雨音を通さない。  特に今日は湿気を嫌って窓を開けていないから余計に。  幼い頃から成人して家を出るまで、俺はこのマンションに住んでいたはずなのに、ここを出てたった数年の間に、そんなこともすっかり忘れてしまっていたらしい。  何気なく「何か食いに行くか?」と問いかけた俺だったが、音芽(おとめ)がレースのカーテンを割って窓外を見てから、ふるふると首を横に振った。 「またびしょ濡れになっちゃうよ?」  言われて彼女の背後に立てば、確かに外は未だ霞むほどの雨に見舞われていた。  さっきその雨のせいで2人でシャワーを浴びて着替えを済ませたばかりだ。 「どうする?」  聞いたら、音芽が冷蔵庫の中を見てみる、と言い出した。  旅行へ行くのに食料を置いて行くとは思えないぞ?って言ったら、音芽が俺の方を見てクスッと笑う。 「甘いな、温和(はるまさ)。うちのお母さんはそんなにできた人じゃない」  言って再度クスクス笑う。  そう言えば俺の母親は割とそういうのに余念のないタイプだが、音芽たちの母親はのほほんとした陽だまりのような女性(ひと)だった。  音芽がちょっぴりほやーんと抜けたところがあるのは、案外母親譲りなのかもしれない。
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