特典④『雨とピアノとハムスター』

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「今は夕飯作りが最優先事項ですよ? 助手の温和(はるまさ)くん」  叱られてしまった。  けど懲りない俺は、今は、ってことはそれが済んだらその限りではないってことだよな、とか思いながら一旦手を引っ込めただけに過ぎない。  さっきたらふく彼女の痴態をご馳走になった俺は、束の間だけど待てのできる男だ。 「お願いって何?」  気を取り直して聞けば、「あの上にね、寸胴鍋(ずんどうなべ)がしまってあるの」と吊り戸棚を指差す。  あんな高いところ、小柄な音芽(おとめ)の母親は、いつもはどうしてたんだろう?と思ってから、きっとこんな風に父親や奏芽(かなめ)が取っていたのかな?と思い至る。  うちは母親も父親もそこそこに高身長夫婦なので、そういうのはあまり見たことがないが、鳥飼(とりかい)家の方は母親と父親に20センチ近い身長差があるので、きっと「あれ取って?」は日常茶飯事な気がする。  そう、きっと俺と音芽(おとめ)が一緒に暮らしてもそうなるに違いない。  ふとそんなことを考えて、思わず頬が緩んでしまう。 「温和(はるまさ)、さっきからニヤニヤしすぎ!」  音芽に注意されて、俺は咳払いとともに背筋をただした。  いや、そもそもお前が可愛すぎるのが悪いんだからな? 自覚しろよ?  そう言いたかったけれど、言ったら何となく俺が馬鹿みたいに見える気がして、寸前で飲み込んだ。
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