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「今は夕飯作りが最優先事項ですよ? 助手の温和くん」
叱られてしまった。
けど懲りない俺は、今は、ってことはそれが済んだらその限りではないってことだよな、とか思いながら一旦手を引っ込めただけに過ぎない。
さっきたらふく彼女の痴態をご馳走になった俺は、束の間だけど待てのできる男だ。
「お願いって何?」
気を取り直して聞けば、「あの上にね、寸胴鍋がしまってあるの」と吊り戸棚を指差す。
あんな高いところ、小柄な音芽の母親は、いつもはどうしてたんだろう?と思ってから、きっとこんな風に父親や奏芽が取っていたのかな?と思い至る。
うちは母親も父親もそこそこに高身長夫婦なので、そういうのはあまり見たことがないが、鳥飼家の方は母親と父親に20センチ近い身長差があるので、きっと「あれ取って?」は日常茶飯事な気がする。
そう、きっと俺と音芽が一緒に暮らしてもそうなるに違いない。
ふとそんなことを考えて、思わず頬が緩んでしまう。
「温和、さっきからニヤニヤしすぎ!」
音芽に注意されて、俺は咳払いとともに背筋をただした。
いや、そもそもお前が可愛すぎるのが悪いんだからな? 自覚しろよ?
そう言いたかったけれど、言ったら何となく俺が馬鹿みたいに見える気がして、寸前で飲み込んだ。
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