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「お風呂あいたよ? 温和もどうぞ」
音芽の手料理はとても美味しくて、いつでも嫁に行けるな、こいつと思ってから、そもそも料理が出来ようが出来まいが、それこそ家事全般の腕前がどうであろうが俺には関係ねぇけどな……と思って苦笑する。
「温和?」
ほんのり上気した彼女の顔を見て、俺が知らず口の端を緩めたのを見て、音芽がキョトンとする。
「ね、今日の温和、なんだか変よ?」
言われなくても自覚してるさ。
音芽と付き合うようになってから、まるでタガが外れたみたいになんだかんだと理由をつけては結構一緒に寝起きしたりしている。
けど、こんな風に四六時中2人きりでいることはなかったからか、今日はやたら音芽との結婚後のあれこれを想起させられて、俺自身正直戸惑っていた。
っていうか、音芽はそういうの、意識したりしないんだろうか。
ふとそう思ったら、自分ばっかりが彼女に惚れ込んで浮かれているようで、何だかちょっぴり悔しくなる。
「何でも……ねぇよ」
それでついつっけんどんな物言いになってしまって、音芽をムスッとさせてしまった。
「わけわかんない」
ぷうーっと膨らむ音芽がまた可愛くて、「ホント、何でもねぇから」と言って、湯上りでホカホカと温かい、いい香りのする音芽のおでこにキスを落とす。
それだけで怒っていたのを忘れたように、音芽が真っ赤になるのがまた可愛くて、ギュッと抱きしめたい衝動に駆られた。けど、先に風呂へ入ってからにしよう、と思い直す。
「俺が風呂から上がったら、な?」
何を、とはあえて言わなかったけれど、音芽がピクッと反応したのを見て、俺は満足して風呂へ向かった。
風呂上りはさっきお預けを喰らった分も含めて音芽を抱きしめよう。
そんな風に思いながら。
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